うまく育てようとするのをやめた日──マーケティングの本を読んで、子育ての見え方が変わった

子どもと向き合っていると、「育てる」という言葉に縛られていることがある。

ちゃんとできるように。困らないように。どこへ行っても浮かないように。

そのどれもが、間違ってはいないと思う。ただ、ある日ふと、息苦しさを感じることがある。うまく育てようとしているはずなのに、なぜか、関係が窮屈になっていく。

その感覚を言葉にできたのは、このマーケティングの本を読んだときだったように思う。

『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(西口 一希)

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この本は、何を語っているのか

『たった一人の分析から事業は成長する』は、「顧客起点マーケティング」を実践するための本だ。

ここで言うマーケティングは、「どう売るか」「どう選ばせるか」といったテクニックの話ではない。

  • 市場とは、どんな場所なのか
  • そこで求められる振る舞いとは何か
  • 人はどこでつまずき、離脱するのか

それをたった一人の具体的な顧客(N1)から丁寧に読み解き、「選ばれ続ける状態」をどうつくるかを考える。

一度売れることよりも、一度選ばれることよりも、選ばれ続けることに意味がある

そんな思想が、本全体を貫いている。


マーケティングは、人を動かす話じゃない

マーケティングという言葉には、どうしても誤解がつきまとう。

「どうやって人を動かすか」「どうやって選ばせるか」

でも、この本が扱っているのは、もっと地味で、もっと現実的な話だ。

どんな場なのか。
どんな振る舞いが自然なのか。
どこで違和感が生まれるのか。

それを読み取り、無理なく受け入れられる状態を整えること

マーケティングとは、人を操作する技術ではなく、「その場に居続けられる構造」をつくることなのだと、この本は繰り返し語る。


育児は「教えること」ではなく、「慣れていくこと」

この考え方を、そのまま子育てに重ねたとき、いくつもの場面がつながった。

順番を待つこと。声の大きさを調整すること。ルールがあることを受け入れること。

どれも、「正解を覚えさせる」話ではない。

その場に居続けるための感覚を、少しずつ身体に入れていく話だ。

市場に適応する、という言い方は強すぎるかもしれない。
でも、集団の中で浮かずに過ごすことも、社会の中で居場所をつくることも、本質的にはとても近い。


N1とは、「最初につまずいた一人」のことでもある

この本で語られるN1は、理想の顧客ではない。優良顧客でも、成功事例でもない。

いちばん最初に、市場とぶつかった一人。違和感を覚え、摩擦を起こし、戸惑った一人。

育児で言えば、

  • はじめて集団に入った日
  • ルールにぶつかって泣いた瞬間
  • どう振る舞えばいいかわからず、立ち止まった時間

そうした場面こそが、N1だ。


しつけがうまくいかないとき、何が起きているのか

うまくいかないとき、大人はすぐに「打ち手」を探す。

叱る。
褒める。
ルールを増やす。

でもマーケティングの視点で見ると、それは少し順番が早い。

なぜなら、行動はいつも結果だからだ。

その前にある、

  • 何がわからなかったのか
  • どこで不安になったのか
  • 何が怖かったのか

そこを見ないまま手を打つのは、
場の空気を読まずに声だけを大きくするのと似ている。


家庭は、安心して失敗できる「小さな練習場」

この本を読んで、家庭の役割がはっきりした。

家庭は、うまくやる場所じゃない。

失敗しても排除されず、
何度でもやり直せる場所。

外の世界に出る前に、摩擦を経験し、
「どうすれば居続けられるか」を試せる小さな練習場だ。

マーケティングでは、一度だけ売れる商品は珍しくない。

話題になった。
タイミングが良かった。
偶然ハマった。

でも、それだけでは続かない。

市場で意味を持つのは、選ばれ続けることだ。


子どもが、

  • 一度あいさつできた
  • 一度我慢できた
  • 一度ルールを守れた

それだけで、「できるようになった」と思いたくなる。

でもそれは、マーケティングで言えば初回購入が起きただけの状態だ。

再現性はない。
持続性もない。

大事なのは、その振る舞いが
無理なく、選び続けられるかどうか


商品起点に陥ると、育児は苦しくなる

マーケティングでよくある失敗は、
「いい商品をつくれば売れる」という発想だ。

育児にも、それとよく似た罠がある。

  • いい声かけ
  • 正しいルール
  • 最適な褒め方

それ自体は悪くない。
でも本当に見るべきなのは、それが続けられるかどうかだ。

行動を“売り込む”のではなく、
行動が自然に選ばれる状態をつくる。


能動性は、「引き出すもの」ではない

能動性は、引き出そうとしても生まれない。

言われたからやる。
怒られるから動く。

それは、外から押されているだけだ。

能動性が生まれるのは、

  • 自分で意味を理解し
  • 自分で選び
  • 自分で動いたとき

マーケティングで言えば、自走が始まった状態だ。

面白いのは、能動的な存在が場の空気を変えることだ。

自分で考えて動ける子は、
周囲の子にも影響を与える。

空気を落ち着かせたり、流れをつくったり。

それはリーダーシップというより、
場に受け入れられた結果としての影響力に近い。

最後に市場に残るのは、

目立った行動でも、
一時的な成功でもなく、
無理をしなくても続く振る舞いだ。

育児も同じだと思う。

頑張らなくてもできること。
気づけば、そうしていること。

それが、少しずつ積み上がっていく。


うまく育てなくていい、と思えた

この本を読んで、子育てがうまくなったわけじゃない。

ただ、焦らなくなった。
育てようとする力を、少しだけ抜けた。

代わりに、
「この子は、いま何に慣れようとしているんだろう」
そう考えるようになった。

『たった一人の分析から事業は成長する』は、子育ての本ではない。

でも、人が場に受け入れられ、
選ばれ続け、
やがて影響を持つようになるまでの過程を、
これほど一貫して語っている本も、あまりないと思う。

育児を、感情論や根性論ではなく、
もう少し引いた視点で捉えてみたいと思ったら。

この本は、その視点をくれる一冊になるはずです。

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